エリート・コースの裁判官

戦後最高のSM奇書「家畜人ヤプー」の覆面作家と名指しされた 東京高裁 倉田判事の空しい反論:週刊文春(昭和57年 10月14日号)

戦後最高のSM奇書「家畜人ヤプー」の覆面作家と名指しされた 東京高裁 倉田判事の空しい反論:週刊文春(昭和57年 10月14日号)

あとがきのゲラへの赤入れの字は、矢牧氏の記憶によると、天野氏の字ではなく、『奇譚クラブ』に赤を入れた字と同じであったというのである。

もう一つ。

あとがきといえば、角川文庫のあとがきにも、真の筆者をさぐるヒントがかくされていた。

あとがきの中で、

「ある白人ドミナ(女主人の意。前出沼氏の手紙にでてくるドリスのこと。編集部註)と私との文通を仲介することで、宿構の文思に天籟(インスピレイション)の翼を与えるのを手伝って下さった谷貫太氏の好意をも、なつかしく想起する(この小説の登場人物の幾人かの命名が彼女に由来することを言えば、氏はこの文章が沼正三本人の手に成ることを納得されるであろう。それは二人だけの秘密であったから)。」

谷貫太なる人物が読めぱ、このあとがきが、沼正三本人の手になることは自明の理と言っているわけだ。

そしてこの谷貫太こそ、実は『諸君!』に『ヤプー』の正体を発表した森下小太郎氏その人なのである(昭和四十七年、森下氏は谷貫太のペンネームで「レターM」というマゾ小説を、三崎書房から出版している)。

あとがきで沼正三は、谷貫太、すなわち森下小太郎氏のみが、沼正三の正体を知る人物だと記した。そしてその森下小太郎氏は、沼正三は倉田貞二、すなわち倉田卓次氏だと言明しているのである。沼正三氏の正体は、おのずとあらわれた、と言えないだろうか。

最後に、判事としての倉田卓次氏について記しておこう。

「倉田判事は、最近では、五月の交通事故賠償の民事訴訟で、”インフレ加算”を提示した判決を出して、話題を呼びました。来春に予定されている第二次教科書訴訟の担当も決まっているんです。現在、干葉地裁の所長をしている勝見嘉美氏に次ぐ同期でナンパー2のエリートです」(司法記者)

「法律論文をたくさん発表し、大胆な判決を出しますが、その判決はとても重視されていますね。人柄も悪くないし、評価は高いですよ」(倉田判事を知る弁護士)

裁判官が、世界的なマゾヒズム小説を書いたのは、成熟した日本文化の証しだといわんばかりに、森下小太郎氏が呟いた。

「裁判官は司法試験に通れば、誰でもなれるんです。それこそトラックに何台も乗るほどいるのですよ。しかし、『ヤプー』の作者は、この世にたった一人しかいないんです。私は『ヤプー』の作者であるほうが、はるかに名誉だと思うんだが・・・・・・」

・・・了