ニッポン最後の怪人・康芳夫

昭和四十四年

『ぜひ、あれを見つけ給え。あれこそは戦後最大の傑作だよ。マゾヒズムの極致を描いたまったく恐ろしい小説だ。出版する価値のある本だ』

そう三島由紀夫は小生に熱を込めて家畜人ヤプーの内容を語りつづけた。

康芳夫、三島由紀夫を語る(13)

それは日本の社会に一石を投じたけれども、しかしそれは相対的な安定期という、広い意味での日常的惰性。瞬間的にはそれに対し「一石」を投じたけれども、しかしそれはあっという間に泡になっていった。一部の右翼が三島の「英雄的行為」を信奉して「三島祭」ってのをやってるけどね。僕も、彼が非常に意味の深い行為をやったと思っているけれど、もう人々はとっくに忘れちゃったよ。日常性というのはそういうもので、すべて時間が解決してくれる。それは日本だけのことじゃなく、グローバルなレベルでどんな事件がおきても必ず最後は平穏な日常性に戻っていく。

それは打破したいと思ってる人はすればいいんだけど、今はやっぱりそれは、世界的に風潮として、人間の根元的バイタリティの中から失われちゃっているわけだよね。みんなおとなしくなっちゃって、飼いならされちゃってる。僕もそれは打破すべきだと思いますけど、でも、これはきわめてやっかいな事だから。いわゆる政治的、社会的革命行為ともちょっと違うんだ。

・・・『虚人と巨人 国際暗黒プロデューサー 康芳夫と各界の巨人たちの饗宴』より抜粋

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