異端の肖像「虚業の狭間で」:東京新聞(2002年(平成14年)5月2日 木曜日)

異端の肖像「虚業の狭間で」:東京新聞(2002年(平成14年)5月2日 木曜日)

夢のない時代に夢を復活させるもの

夢という言葉をいろんなところでよく聞くが、この二一世紀に本当に夢と言えるものはあるのだろうか。ふとそんなふうに思うときがある。

戦後、日本人の多くは漠然とながらも未来への希望や夢といったものを抱いていたが、今やそんなものはどこにもない。貧しさから出発した戦後の日本人は美味しいものをたらふく食べて、豊かなモノに囲まれて暮らしたい、そんなことを素朴に夢見たんだと思う。

しかし、今や飽食の時代とまで言われ、ハイテク電化製品や車や服やありとあらゆるモノが過剰なまでに満ち溢れている。そんな中にあっては新しい目標や夢を持てと言われても、なかなか難しいのだろう。

ただ、ここで誤解してはいけないのは、戦後の日本人が抱いていた夢というのは、けっしてモノの豊かさだけを追求するものではなかったという点だ。そうした夢や希望は根底においては、幸福で楽しい生活を実現するんだという無意識の思いに貫かれていたと思う。

・・・以上、虚人のすすめ―無秩序(カオス)を生き抜け (集英社新書)より抜粋