牢の中で書いたサド・・・・・・(1)

『諸君!』昭和58年(1983年)2月号:「家畜人ヤプー」事件 第三弾!沼正三からの手紙

『諸君!』昭和58年(1983年)2月号:「家畜人ヤプー」事件 第三弾!沼正三からの手紙

ヤプー批評に話を戻す。また長くなるが、三十一年十一月六日付の手紙をお目にかけよう。この日付からして、『ヤプー』第一回を読んだ私がその感想を沼に伝え、それに対する返状がこの手紙だと思う。

<拝復、過褒の辞をいただき恐縮しました。然し、貴下の求められるところが非常にレヴェルの高いものだということ以外に、多少小生と考えの異る点もあって、その点からの御失望を今後御与えするだろうと思いますので、それをあらかじめおことわりしておきたいと思います。

先ず私は小説らしいものをかくのがこれで生れてはじめてだということです。読む方は好きで、高校以来色々読んだ方ですが、眼高手低、今迄かいたことがありません。ですから、「小説技法としての完成」は私にとっては全然問題になりません。(中略)この点私は従来のマゾ小説に対する不満が貴下とは違うのです。既に「潰城の前夜頌」の一文でもかいたことですが、私の不満は、干篇一律の陳腐な想にあるのです。いつも「女主人対奴隷」の間でマゾプレイが行われる、その変りばえのなさがあきたらないのです。

それだからこそ、その想の点で、今迄なかったものをかきたいために、あえて私が慣れぬ小説の筆を執ったわけで、狙いは想にありますし、想に止まります、技法という点は狙ってもいませんし、狙ったとして大して成果がありそうにありません。(中略)

・・・次号更新【『諸君!』昭和58年(1983年)2月号:「家畜人ヤプー」事件 第三弾!沼正三からの手紙:森下小太郎・・・連載40】に続く