沼正三 自筆原稿:『最初の家畜は人間だった』

ここに、三首の和歌を併記してみよう。『家畜人ヤプー』執筆の遠因を説く手がかりともなりそうだからである。

貧すれば鈍するとかや金持に

なりし日本は賢人ばかり

---曽宮一念『雁わたる』

あしざまに 国をのろひて言ふことを

今の心のよろどころとす

---釈 迢空『倭をぐな』

中年の男同志の「友情論」

毛ごと煮られてゐる鳥料理

---寺山修司『テーブルの上の荒野』

前二首は、愛国、愛国とやけに喧しい当世の風潮に対する反発と自己嫌悪、残る一首は金子みすゞの詩にも通じる人間呪詛、これらのものが通奏低音のようにマゾヒズムの概念の基底をなして欲する。

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