沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)

劇的な人生こそ真実―私が逢った昭和の異才たち

沼正三のプロペラ航空機・・・8

当時私は知らなかったが、『家畜人ヤプー』はすでに1956年から「奇譚クラブ」に連載されていたというのだ。

ということは私が見た原稿の束は生原稿ではなく1970年に都市出版社から単行本化されたゲラだったのだろう。ゲラ刷りの状態だから見せてあれこれ言われたくなかったのだと、今はそう理解している。著者としては初めての単行本化で嬉しかったのではないだろうか。だから若造にも、ほんの少し見せて自慢したかったのかも知れない。

あるいはもしかすると、そういうたぐいのゲラを最初に手にする時のマナーがあるのかも知れない。沼さんは仕事柄多くの作家と接していたから、私がその基本的なルールに従わないので素早くひっこめたのか。そんな考えが頭をよぎったりもする。

出版されてから数ヶ月後だったと思う。プロデューサーの康芳夫さんから電話があって『家畜人ヤプー』の出版記念パーティーを企画しているから、君がその演出をするように、というのだった。沼さん本人から名前が挙がったという。

・・・次号更新【沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)より】に続く

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