沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)

劇的な人生こそ真実―私が逢った昭和の異才たち

沼正三のプロペラ航空機・・・9

打ち合わせは新宿のバーだった。席に着くと沼さんは、前回会った時とはまったく別人のように明るく自信に満ちていて、快活な人になっていた。名刺をもらった。新潮社校閲部の天野哲夫となっていた。意外な人物なのでびっくりしてしまった。

康さんは自分が仕掛け人で、この本を世に出せたことがうれしかったのだと思う。よく笑い次から次へと自分が考えている企画を話してくれた。気宇壮大、奇想天外で、本気なのか冗談なのかよく分からない。若者を煙に巻いて楽しんでいる風情もあった。プロデューサーという人は夢だけを食べる子供のような人なのだ。

後年康さんはモハメド・アリを日本に呼んで猪木と対戦させたり、ネッシーを捕獲するといって探検隊をネス湖に派遣したりとかした。

出版記念パーティーの会場は銀座の高級クラブで、入り口には足拭きマットのように全裸の男が伏せていて、それを踏みながらお客が入場するのだという。ところどころにオブジェのような裸の男たちが立っていて、時々鞭を持った女主人が打擲する。

ハイライトは女主人が客席の中央に出てきて、ペットの男が便器に変貌するという。

「本当にオシッコ飲むなんて人来るんですか」

私が言うと、

「週刊プレイボーイに、マゾの男の参加を呼びかけるから、大丈夫」

と康さんは自信たっぷりに言うのである。

半信半疑だったけれど、康さんは、

「人はいくらでも集まるよ」

と余裕綽々なのだ。

・・・次号更新【沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)より】に続く

−−−

−−−