逆ユートピアの栄光と悲惨・・・8
ところで、読者は問われるに違いない。ヤプーをそこまで虐待する白人の側に、いったい罪悪感は無いのか、と。結論を先に述べれば、そんなものは綺麗さっぱりと無いのである。
ヤプー猿人説は、最初政策的神話として語られた。それは、人権論者の口をふさぐためにマス・コミを通じて流布されたが、その段階では、まだ疑惑を拭いきれなかった者も無いとは言えない。しかし、ヤプー家畜化の「事実」は、人々の疑いを弱め、信念を強化するのに与って力があったし、加えて、二十三世紀に出たローゼンバーグの大著『家畜人の起源(オリジン・オブ・ヤプー)』が事態を決定的なものにした。かれはその書物で、豊富な例証と巧妙な人類学的理論をもって、ヤプーが疑似人類に過ぎないことを論証した。人々は、いささかの良心の痛みをも伴うことなく、ヤプーの非人間化を推進することを得たのである。イース帝国の人種的序列のうちに、われわれはナチスの人種理論の微妙な投影を読みとることができるが、先のローゼンバーグが、「前史時代末期に『二十世紀の神話』を著わしたナチス戦犯哲学者アルフレート・ローゼンベルクの血を引く大生物学者」とされていることを書き添えておこう。
・・・次号更新【逆ユートピアの栄光と悲惨:家畜人ヤプー解説(前田宗男)より】に続く
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