逆ユートピアの栄光と悲惨・・・21
昭和二十年八月十五日---既存の価値の体系と秩序が崩壊した後に起こった事は、いったい何であったか?一面の廃墟の灰の下、失われた神話から、正銘の黄金(きん)はここに隠してあったのさ、と言わんばかりの見事さで民主主義(デモクラシー)の神話がとり出され、日本全体が屈服と隷従という現実を忘れたのだった。「進駐軍の命により」の一句がはらんでいた魔呪的な効能を想起せよ、敗戦に続く数年間ほど、日本人が親米的であったことは、あとにもさきにも絶えて無いのである。確かに、そこには、手妻使いの手際を思わせる目ざましさと、インチキ臭さとが同居していた。だが、その時、沼正三は飽くまで屈服と隷従にしがみつき、オキュパイド・ジャパンという構図を徹底的に生き抜くことによって、それをひとつの反世界にまで造型したのであった。
沼正三の眼に、敗戦の屈辱によって、日本の歴史過程全体が腐蝕された、と映ったことこそ、V章の終りに述べた首尾一貫性の意味であろう。
・・・次号更新【逆ユートピアの栄光と悲惨:家畜人ヤプー解説(前田宗男)より】に続く
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