『血と薔薇』1969.No4

逆ユートピアの栄光と悲惨・・・25

三島由紀夫は、「この作品の諷刺やアナロジーを過大評価してはいけない」(『小説とは何か』と、したり顔に忠告しているが、このような小説から「諷刺」や「アナロジー」をとり去ってしまったら、辛みの抜けたわさびも同然である。読者の想像力を無限に刺激し、ありとある「アナロジー」や「諷刺」の矢を飛びたたせることにこそ、かかる書物の真骨頂はあってしかるべきではないだろうか?この小文も、そのささやかな試みとして読んでいただきたい。つまり、個人的生理の深い必然に発して、性的倒錯という宿命に彩られた世界が、どこまでメタフィジックスとしての普遍性を担い得るか、ということ。著者沼正三は、旧都市出版社版単行本の「あとがき」に、「同好者のために書かれた」この作品が、「版を重ねて万を超える読者に選ばれた、という事実」に「当惑している」ことを告白しているが、身銭を切ってこの書を購った以上、読者には、著者の「当惑」など正当に黙殺し去る権利があるだろう。

---エッセイスト

※この解説は一九八四年五月、角川書店から刊行された単行本(限定愛蔵版)より再録したものです。

・・・了【逆ユートピアの栄光と悲惨:家畜人ヤプー解説(前田宗男)より】

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