家畜人ヤプー:幻冬舎アウトロー文庫

逆ユートピアの栄光と悲惨・・・22

この小文を草しながら、私は、いささかペダンティックな雰囲気が濃厚すぎることに気がとがめているのだが、最後にもうひとり、サルトル氏に御登場願わなければならない。サルトルが想像力についての厖大な現象学的論証をとおして辿り着いた結論は、大略次のようなものであった。

知覚作用と、《像(イマージュ)》喚起の機能としての想像力とは人間の意識世界を二分して領する重要な要素だが、「知覚」が目前の事物に結びついて、現実世界を志向するのに対して、《像(イマージュ)》は常に目前の世界を離れて、非現実の世界、架空の世界を志向する性質をもっている。両者の関係を簡潔につづれば、「想像界」は「現実界」の空無化(ネアンテイザシオン)の上に成し、「現実界」は「想像界」の空無化(ネアンテイザシオン)の上に成立する、とも言えようか。何らかの形において意識が現実否定の契機を全く含まぬ時---すなわち、知覚する目前の事物によって意識が全的に占められる時、想像力の働きは不可能である。そして、そのような、現実の事象に密着してそれに拘束される状態から脱して、意識が自由になるとは、すなわち想像的創造が可能になることを意味する。サルトルは、「非現実なものは、世界内にとどまる意識によってこの世界外に産み出され、人間が想像するのは何故かといえばそれは人間が先験的に自由だからである」と言う。

・・・次号更新【逆ユートピアの栄光と悲惨:家畜人ヤプー解説(前田宗男)より】に続く

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