虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝/康芳夫(著)より
男のロマン
戦後、まだ日本が高度成長へと向かう前の日ソ国交正常化の前夜という時代の端境期に、このボリショイサーカス公演ははじまった。まさに、日本の政府がもたつく対ソ外交政策を尻目に、旧制中学しか出ていない元株の相場師がソ連政府と裏で手を組み、対日文化攻勢という名目でボリショイサーカスを引きずりだし、みごとに大もうけした。
神のやったことは、戦後の闇がようやく晴れかかった時代の谷間を衝いて世界に向けて自分自身の能力と可能性にロマンを賭けた、という意味で、たった一人の男のひらめきと底知れぬ行動力で日本政府ができないようなことを実現してしまった、ということにつきるだろう。
また、ある意味でその利権に割って入りボリショイサーカスの興行権を乗っとってしまった本間興行の本間誠一も、どこか彼らと相通じる人種だったのかもしれない。
こんな個性豊かな男たちがいきいきとうごめきまわれる時代だったのだ。そして、「呼び屋稼業」というのも、そんな時代に咲いた仇花のような存在だったのだ。
毎晩、銀座の高級クラブで金庫からつかみだした札束をふところに入れ、ブランデーグラスを傾けながら、私は「呼び屋ほど俺の性分に合った商売はない。まさに男のロマンだな」などと美女たちの肩に手をゆだねながらつぶやいていた。そしてそれをきわめて冷ややかに見つめるもうひとりの自分がいた。
・・・次号更新【『虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝』 official HP ヴァージョン】に続く
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— 康芳夫(国際暗黒プロデューサー) (@kyojinkouyoshio) August 18, 2020
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