虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝/康芳夫(著)より

虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝/康芳夫(著)より

アートフレンドの倒産(2)

会社の近くのバーでグラスを合わせる時も、彼の口から出る言葉は愚痴めいたものばかりだ。カウンターの中をじっと見つめながら「いままでやってたことはなんだったんだ。結局、気まぐれな大衆に振りまわされ一喜一憂してただけじゃないか。我々は奴らの享楽の餌食になってしまったんだ」などとつぶやいている。そんな彼の姿からは往時のカリスマ的呼び屋としての魅力はあとかたもなく消えうせていた。

これほど落ちこんでいる彼に、安っぽい慰めの言葉など何の意味もないだろう。そんなものは私の性分にも合わない。私は黙って、一杯、また一杯とブランデーのグラスを重ねていった。

そして、ついにアートフレンドアソシエーションは倒産した。負債総額は当時の金額で約六億円を超えていた。いまの金でざっと一〇〇億円というところか。債務者の名前には、神彰だけでなく、大恋愛の末に縮ばれた夫人の有吉佐和子の名前もあがっていた。

華やかな成功者の末路はよりいっそう、悲惨なものだ。みずからも債務者になってしまった有吉佐和子もついに神彰のもとを去っていってしまう。ふたりは離婚した。会社の倒産、家族の崩壊。すべてを失った彼にはもはや再起への活力などどこにも残っていなかった。忘れもしない昭和三九年六月。東京にさわやかな初夏の陽射しが照りつける頃だった。

・・・次号更新【『虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝』 official HP ヴァージョン】に続く

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