ニッポン最後の怪人・康芳夫

昭和四十四年

『ぜひ、あれを見つけ給え。あれこそは戦後最大の傑作だよ。マゾヒズムの極致を描いたまったく恐ろしい小説だ。出版する価値のある本だ』

そう三島由紀夫は小生に熱を込めて家畜人ヤプーの内容を語りつづけた。

康芳夫、三島由紀夫を語る(9)

あの事件は、あれをもし“遊び”というのなら、ある意味最終的な究極の遊びなんだよ。人生を“退屈しのぎ”という風に考えると、退屈しのぎの究極なんだ。その場合、“退屈しのぎ”を“遊び”だけでやったのかどうか、そこは非常に微妙な問題だからね。しかし、社会が相対的安定期に入ってしまったというのはまったくその通りで、経済的パニックがあったり、中国や北朝鮮等と一時的トラブルがおこっても、そんなことは三島及び三島事件の「予言」するところとくらべれば、何程のものでもない。もう完全に、三島が予言したとおり、日本のみならず「世界」は精神的にダメになってきている。

これは三島に対して失礼かもしれないけれど、僕の手掛けたオリバー君やモハメド・アリも退屈しのぎという観点からは同じことなんです。あの三島事件は、つまり究極の退屈しのぎをやっちゃったわけだけど、あれをそれだけで葬り去るにはなかなかやっかいなことで、それを「普通の人ができない」という意味において、まず僕は評価する。

・・・『虚人と巨人 国際暗黒プロデューサー 康芳夫と各界の巨人たちの饗宴』より抜粋

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