沼正三 自筆原稿:『最初の家畜は人間だった』昭和四十四年

『ぜひ、あれを見つけ給え。あれこそは戦後最大の傑作だよ。マゾヒズムの極致を描いたまったく恐ろしい小説だ。出版する価値のある本だ』

そう三島由紀夫は小生に熱を込めて家畜人ヤプーの内容を語りつづけた。

康芳夫、三島由紀夫を語る(6)

マイアミの、モハメド・アリのトレーニングジムで最初にあの事件のことを聞いて、「ああ、やったな」と思ったんですよ。「こいつはこの世の中に飽き飽きして、何かやるな」とは思っていたけど、ああいうかたちでやるとは考えなかった。アリのジムで、マイアミ・ヘラルドニュースっていう新聞の写真入りトップ記事になってて、最初意味がわからなかったんだよ。ジムのアリのマネージャーが、「ミスター・コウ。ミシマって男がこんなことやったらしい」って、最初何が起きたかさっぱりわからなかった。彼が演説してる写真がトップページに出てて、どうも割腹したらしい。最初ドラマかと思ったんだけど、読んでるうちに彼が首を切られたって話で、すぐ東京に電話した。東京はもう、蜂の巣を突ついたような話でね。僕は瞬間的に『鏡子の家』のことを考えた。

・・・『虚人と巨人 国際暗黒プロデューサー 康芳夫と各界の巨人たちの饗宴』より抜粋

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