康芳夫

昭和四十四年

『ぜひ、あれを見つけ給え。あれこそは戦後最大の傑作だよ。マゾヒズムの極致を描いたまったく恐ろしい小説だ。出版する価値のある本だ』

そう三島由紀夫は小生に熱を込めて家畜人ヤプーの内容を語りつづけた。

康芳夫、三島由紀夫を語る(10)

彼は、ある意味でラディカルな反体制的作家なんですよ。反体制というか、反日常性。勿論芸術家の志向は一般的にそうなんだけど、この退屈な日常というレベルでの生活が耐えきれなくなり、それで逃げ込んだ世界が王朝文学とか、天皇制を中心とする日本文化至上主義だよね。そこのところは僕にはよくわからない部分もいろいろあるけれど、しかし日本人である以上、そこに逃げ込むしかないんだよ。結局天皇至上主義というか、天皇制を中心とする文化至上主義。

彼は、天皇個人に関しては非常に厳しい考えを持っていた。終戦時に天皇が人間宣言をしたことを『英霊の聲』で厳しく批判したわけ。天皇、および天皇を取り巻く日本伝統文化は非常に神聖な存在で、日本および日本人の究極のエッセンスをそこに求めた。結局それしかなくて、それも結局単純に分類するといわゆる右翼になってしまうわけだけど、必ずしも政治的な右翼とは関係ないと思う。

・・・『虚人と巨人 国際暗黒プロデューサー 康芳夫と各界の巨人たちの饗宴』より抜粋

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