虚業家宣言(20):第三章 出版界に殴り込む
◆『アラビア大魔法団』の真相
さて、結局、クレイの来日不能が決定的となり、私と神さんに対するマスコミからの攻撃も一段落したところで、私は何か次の仕事を考え出さねばならなかった。
すでに、クレイ戦の失敗がダメ押しの形となって、『アート・ライフ』が再び倒れるのは、ほぼ確定的だった。
だが、坐して死を待つなどというのは私の肌に合わない。一応できるところまでやろう、私は悲愴な決心を固めていた。
そして、まず、手がけたのが『アラビア大魔法団』である。
これは、あちこちに泣きついてかき集めた金でヨーロッパを回っていた神さんが、偶然、ドイツで見つけ出してきた。名前こそ”ナントカ大魔法団”と仰々しいが、実はアラビア人なんて一人もいなかった。全員ドイツ人とポーランド人からなる一団で、ドイツのナイトクラブなどで、いわば”ドサ回り”していたのを、神さんが、ワラをもつかむ気持で拾ってきたのだった。まあ、言ってみれば、日本のキャバレーなどで酔客相手に歌う、三流歌手の類、正直言うと、とても『アート・ライフ』が手を出すシロモノではなかった。
だが、”魔法団””魔法、魔術”と繰り返しているうちに私はいいことを思いついた。魔法といえば、アラビアンナイト。魔法の本場はアラビアだ。
「よし、アラビア魔法団でいこう」
これで、”千古の秘法を伝える”『アラビア大魔法団』が誕生したのである。
なるほど、羽田に着いた一行を迎えに行ってみると、全員白人である。
私は、慌てて彼らをホテルに連れ込むと、彼らの顔、手と足の露出した部分を油煙で真っ黒に塗りたくった。これが、日本公演のメーク・アップだ。ガマンしろ。私は嫌がる彼らを必死に説得し、体中に塗りつけた。
次に私はサウジアラビア大使館に駆けつけた。
「実は、今度、私どもの『アート・ライフ・アソシェーション』で『アラビア大魔法団』を日本へ招いた。これは日本、サウジアラビア両国の友好関係を深めるのに、非常に役に立つと思われるので、ぜひ、推薦状を書いていただきたい」
と強引に頼み込んだ。
びっくりしたのは大使館の方である。
「本国から、まだ何の連絡も来ていないので・・・・・・」
とか何とかゴネていた。それは当然だろう。本国から連絡なんていつまで待っても来るはずがない。
私はクレイ戦のときにニワカ勉強したイスラムの知識を振り回して、大使館員を煙に巻いてしまった。すべてはアラーの神の想し召しです。インシュアラー。
その推薦状が効いたせいでもないだろうが、この『アラビア大魔法団』は意外にも大ヒットとなった。東京公演の後、地方のデパートなどを打って回り、ずいぶん儲けさせてもらった。
もし読者の中に、あの当時、どこかで、この『アラビア大魔法団』をご覧になった方があったら、出し遅れのワビ証文で申し訳ないが、ここでおワビしておきたい。
・・・・・・次号更新【失敗だった『インディ500』】に続く
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