『血と薔薇』1969.No4:小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)

『血と薔薇』1969.No4
エロティシズムと衝撃の綜合研究誌

小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)・・・連載3

他殺放火の疑十分

但例の放火魔では無いらし

右事件は依然として当局の調査続行中のため、今も尚、一切を秘密に付せられて居るが、事件発生直後本社の探聞し得たる処によれば、現場、県立高女の物置廃屋は、平生何人も出入せず、且、火気に遠隔した処なるを以て、放火の疑い十分ではあるが、校舎そのものの焼却を目的とする例の放火魔とは全然、手口が違っている。且、現場には硝子瓶様のものの破片散乱せるも、同所が元来物置小舎なりし為、服毒用の瓶等とは速断し難い。また焼死体の血液採取が不可能な結果、抗毒素、一酸化炭素等の有無も判明せず、従ってその処女なるや否や、又は過失の焼死なるや否やも決定し難い模様であるが、しかし現場の状況、及、屍体の外観等より察して他殺の疑いは依然として動かず。既報の通り色情関係の結果、演出されたる悲惨事では無いかと疑わるる節も多い。尚同校は去る三月十九日以来春季休暇中の事とて、寄宿舎には残留生徒一名もなく、泊込の小使老夫婦、及、当夜の宿直員にも一応の取調は行はれたけれども怪しむ可き点なく、さりとて変態性欲的な浮浪者が、高き混凝土塀を繞らしたる同校構内に校外の少女を同伴し来るが如きは可能性の少ない一片の想像に過ぎず。且、その形跡も無い事が認められている。尚、右記事の解禁後は捜索の方針が全然一変するらしいから、或は意外の方向から意外の真相が暴露されるかも知れない。

・・・次号更新【小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)・・・連載4】に続く