出版妨害を企てた松下幸之助
出版をやろうと決意したとき、私の腹には一つのプランがあった。どうせやるなら大きいとをやろう。といって、『創魂出版』そのものは、小も小、吹けば飛ぶような存在でしかない。
どうするか。
大きな相手を選べばいいのである。大きな相手とケンカすれば、世間は、私自身をも大きく見てくれるものなのだ。一種の錯覚である。
しかも、大きな相手とケンカをした場合には、負けてもともと、もし勝てば、その効果は、はかり知れない。何倍にもなって返ってくる。
”偶像破壊シリーズ”は、そういう私の考えからスタートした。いろんな意味で、その批判がタブーになっている連中に、敢えて噛みつく、思い切ってバッサリ斬りつける、それが、ネライだった。
「現代の”カミサマ”の虚飾をムシり、その実体を明らかに」しようというつもりだった。
選んだ相手は、天下の二大勢力、批判を許さない創価学会の池田大作と、日本共産党の宮本顕治、それに、日本一の実業家であることだけでは飽きたらず、『PHP』によって日本人の精神までをも支配しようともくろんでいる松下幸之助。それに右翼の大物として、これまで批判はおろか、マスコミに取り上げられたことすら稀だった児玉誉士夫。
私はこれまで”虚業家”として、常に大マスコミを利用し、裏の裏まで知って手玉に取ってきたから、よくわかるのだが、今のマスコミは実質的には、完全に体制側に与している。そういう大マスコミでは絶対にできないものに、私は挑戦してみるつもりだった。
平沢正夫の『松下幸之助を裁く』、さとう・せいこうの『池田大作を裁く』、猪野健治による『児玉誉士夫の虚像と実像』。『宮本顕治を裁く』は高知聡が書いた。
どれもベストセラーにこそ、もう一歩だったが、評判はよかった。松下が三万部、宮本が二万部を越した。
残念だったのは、児玉誉士夫のタイトルを『児玉誉士夫を裁く』とやれなかったことぐらいだ。ある”筋”を通して強硬な申し入れがあり、猪野さんが、「今後の取材のこともあるので・・・・・・」と言い出したためであった。
それと、後の章で書くが松下の場合にはかなりの”圧力”があった。平沢さんは取材に当たって二度だけ松下電器に公式の客としてアプローチした。一度は松下歴史館を見学に行ったこと、もう一度はPHP研究所へ『PHP』のバックナンバーを買いに行ったことである。歴史館へ行ったきは守衛らしき人物が名前を問いただした。PHP研究所ではカードに住所氏名を書かせられた。
平沢さんはとっさに、小学校の同級生で隣に坐っていた友人の名を名乗ってきた。住所はデタラメを書いた。それだけ気を使ったのに、しかし、松下は、この本のことを”知った”のである。まだ印刷にかかる時点なのに。恐るべき情報ネットではないか。そして、ある大手広告代理店の担当者と称する者が、『創魂出版』に現われた。
「なんとか、初版だけでやめてくれないか。初版は全部うちで買い取るから」
私は即座に断わった。
むしろ、私は、創価学会や共産党の妨害をこそ予想していたのだが、そちらからは何の”圧力”もかかってこなかった。たまたま、その前年、例の藤原弘達による”言論弾圧事件”が起こっていたため、創価学会も、共産党も手が出せなかったのだろう。
「次には誰をヤリ玉に上げようか」
「大宅壮一なんかどうだろう。マスコミの帝王としての大宅壮一」
そんなときに、私は、大変な作品にめぐり会うことになったのである。『家畜人ヤプー』がそれだった。
・・・・・・次号更新【『家畜人ヤプー』の発見】に続く
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