マフィアからの脅迫
私は何か、イヤな予感がして、その頃、ニューヨークの二流のホテルを転々としていた。むろん、偽名を使ってである。ごく親しい友人にさえ、居所は明かさなかった。
だが、マフィアの組織の力をもってすれば、私の居所を探し当てることなど、いともたやすいことだったらしい。私の行く先々に頻々と怪電話がかかってくるようになった。電話はすべて盗聴されている形跡があった。
「これ以上、ニューヨークにいるとユーの命は保証できないぜ」
「チャイニーズは早く自分の国へ帰れ」
いつの間にか私の国籍が中国にあることまで調べ上げている。
そして、最も多かったのは、ベルが鳴り、私が受話器を取っても、ウンともスンとも言わぬという脅し。これは今、思い出しても、実に不気味なものだった。
妨害はこういった単なる脅しだけにはとどまらなかった。私がニューヨークで使っていたキャデラックのタイヤが、ズタズタに切り裂かれているのを、ある朝、発見したときには、さすがの私もゾッとした。もはやクレイはあきらめて日本へ帰ろうかと真剣に考えたものだ。
どこで調べたのか、私に資金がないことをハーバートにバラした奴がいる。事実、もし、あのとき、ハーバートが私の預金口座でも調べていたとしたら、この私のホラも永遠にホラのまま終わっていただろう。
私は、常にクレイと行動を共にすることにした。クレイが、トレー二ングのためにマイアミへ飛べば私もマイアミへ。シカゴに戻ればシカゴに。
押しの一手だけが私の武器だった。
クレイとは妙にうまが合った。同じ有色人種という点も有利だったに違いない。
「ユーはイエロー、オレはブラック、同じカラードじゃないか」
クレイの言葉である。
クレイほど話好きな男も珍しい。
眠っていないときは、ほとんど休みなく口を動かしている。彼の電話好きは有名で、また、しょっ中、電話がかかってくる。ファンから、新聞記者から、プロモーターから。クレイは長長と二十分も三十分も話している。自分の車にさえ電話をつけているほどだ。ときどき、クレイは自分でも、これではたまらない、と思うのだろう、自分の電話番号を変える。ところが、変えて数時間もたたないうちに、もう、その新しい番号に電話がかかってくるのである。
私はクレイとはずいぶんいろいろなことを話し合った。そしてクレイを知れば知るほど彼の魅力に惹かれていった。
先の話になるが、三島事件のとき、私とクレイはたまたまマイアミのホテルにいた。地元紙『マイアミ・ヘラルド』に、その記事を見出したとき、私は顔色が違っていたらしい。瞬間、アメリカの新聞がよくやるジョークではないかと思った。後の章で書くが、私は三島さんとはかなり親しかった。彼をマリファナ・パーティに引っ張っていったこともある。
私が震える手でその新聞をクレイに見せたとき、彼が何と言ったか、私は今でも、そのときのクレイの語調を忘れない。
「アプソリュートリィ・マッド」
”気狂い沙汰だ”とクレイは言ったのだ。
・・・・・・次号更新【契約成立、だが・・・・・・】に続く
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『虚実皮膜の狭間=ネットの世界で「康芳夫」ノールール(Free!)』真の虚業家の使命は何よりも時代に風穴を開け、閉塞的状況を束の間でもひっくり返して見せることである。「国際暗黒プロデューサー」、「神をも呼ぶ男」、「虚業家」といった呼び名すら弄ぶ”怪人”『康芳夫』発行メールマガジン。・・・配信内容:『康芳夫の仕掛けごと(裏と表),他の追従を許さない社会時評、人生相談、人生論などを展開,そして・・・』・・・小生 ほえまくっているが狂犬ではないので御心配なく 。
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