沼正三のプロペラ航空機・・・6
ショックだった。何も知らない若造には、あまりに奇異な世界だった。快楽がこんな不思議な行為を生み出すのだという事実に新鮮なおどろきがあった。
スクリーンの上では、1人の犬の首輪をした中年男が半裸で部屋を四つん這いで歩いていた。シミーズ姿の女性が犬のように動いている男に足の指を舐めさせている。ミルクも飲ませる。男は命令にはなんでも従う忠実な下部なのだ。
画面が変わると、バーの狭いカウンターの床に男が伏せている。その全裸の男の上で、女性がハイヒールを履いたまま忙しそうに働いているのだ。踏み付けられる痛さを楽しんでいるようである。
一番すごいと思ったのは、女性のオシッコを口で受けるシーンだった。こんなのありかよ、と愕然とした。陰の淫楽を白昼のショーウインドーに引きずり出す痛さがあった。
映画が終わって場内が明るくなっても、私は他人の見てはいけない淫欲を覗き見たような興奮でしばらく立てなかった。
すぐに寺山さんを中心にしてコンサートの打ち合わせが始まった。私はボーっとして話が頭に入らない。私以外のスタッフはみんなロビーに待機していたので、テキパキとミーティングが進行する。私だけが心ここにあらずなのだ。何を話し合ったのか全く覚えていない。
映画の中のシーンは、今も生々しく再生できるのに、ミーティングは何ひとつ覚えていないのである。
その映画のマゾの男に私は興味津々で会ってみたくなった。
そこで、劇団員であった空手竜という芸名の役者に、
「なんとかならないか」
と言ってみた。
空手竜がたまたまその映画に、バーの店員役として出演していたからである。(あるいは、性風俗店の店長だったかもしれない)
数日後の昼下がり、渋谷の並木橋にあった天井桟敷館1階の喫茶店(この店はレジに寺山さんのお母さんが坐っていた。経営者なのだ。店員は劇団員のバイトである)で待ち合わせた。会うのは私1人にしてくれ、という条件が先方から伝えられた。空手竜が最初立ち会って、後は2人だけということになった。
一体どんな人なのだろうか。どんな顔をしているのだろうか。ドキドキしながら入り口のガラス扉を見続けていた。
・・・次号更新【沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)より】に続く
−−−
その時上映していたのが、沼さんが出ていた「日本猟奇地帯」だったのだ。(後で調べるとその映画は「にっぽん’69セックス猟奇地帯」という中島貞夫監督のドキュメンタリーであった) https://t.co/nnUOz4monn #家畜人ヤプー #沼正三 pic.twitter.com/31UuP9EKiX
— 家畜人ヤプー倶楽部 Executive Producer 康芳夫 (@yapoo_club) August 22, 2019
沼正三 曰く
— 家畜人ヤプー倶楽部 Executive Producer 康芳夫 (@yapoo_club) August 29, 2019
---
マゾヒズムの窮極は、他者からまったく無視されること。自分の存在が無に思える状態の事だという。自身がただの1本の管でしかないと実感すること #沼正三 #家畜人ヤプー
---
ヤプーである セッチン(肉便器)を想起する言葉です pic.twitter.com/e5LIQb7DhR
−−−