救いの神『ベニハナ』
私はニューヨークのホテルの一室で、ボンヤリと虚脱状態になって考えこんでいた。窓からはマンハッタンの広い通りが見える。おびただしい車の列。雑踏。だが、あの中にわたしに援助の手を差しのべてくれる者は一人だっていやしない。
事は急を要するのだが、打つ手が見つからないのだ。今さら二万ドルの金ができないということをハーバートが知ったら、契約は即座に取り消されてしまうことは目に見えている。
気晴らしに、私は街に出てみることにした。ニューヨークの街ほど私が好きな街はない。東京よりも、パリよりも私はニューヨークが好きだ。人種のるつぼ。喧燥の都。この街には無いものはない。だが、私は、たった二万ドルの金ができないのだ。この混雑の中でそのことを知っている者は誰もいない。私は抑え切れぬ孤独感に胸をしめつけられた。
いつの間にか私はニューヨークのアップタウン、五番街を歩いていた。五番街は日本でいえば銀座、ニューヨーク一のショッピング・ストリートである。世界的に名の通った有名店が軒を連ねている。貴金属店『ティファニー』、喫煙具の『ダンヒル』、皮製品の『グッチ』。日本の『ソニー』、『高島屋』などもこの通りに店を出している。近くにはセントラルパークがあり、この辺の高級マンションには世界中の億万長者がワンサと住んでいる。
ふと目を上げた私の目に、大きな看板が飛び込んできた。
BENIHANA
Your Table Is Our Kitchen
ベニハナ! ベニハナ! ベニハナ!
「ロッキーだ!」
気がつくと、われ知らず大声を出した私を、ニューヨークっ子がけげんそうな表情で見詰めていた。突然、妙な東洋人の狂人が出現したと思ったのかもしれない。
ロッキー・青木。
私も、その名前は知っていた。
わずか三十歳でレストラン『ベニハナ』を開店。全米に十五の店を持ち、七年間に七百億円を稼いだという男。その資産は何百億になるか見当もつかないという。
持っている車だけでもロールス・ロイスのシルバーシャドー、アメリカ人でも持っている者はごく少ない手造りのスポーツカー・コード、メルセデス・ベンツ300SL、ムスタング、ポンティアックなど何台になるかわからない。全米に散らばる店を回るためにセスナも二機持っている。
ニューヨークの最高級住宅地・ニュージャージー、東京でいえば、まあ、田園調布か成城かというようなところだが、そこに、二十五万ドルの大邸宅を構えている。地下には大きな温水プールが常に水をたたえ、冬でも泳げるのである。
人呼んで”日本のユダヤ人”。
「ニューヨクの三大ホラ吹きってのは誰だか知ってるかい。一にリンゼイ・二ューヨーク市長、二がカシアス・クレイ、そして三番目が『ベニハナ』のロッキー・青木」
という噂話を、私も聞いていた。
「そうだ、ロッキーがいた。なぜ、彼を思い出さなかったんだろう。もうこれで、金はできたも同然だ」
ロッキーが非常に自己宣伝を好むパブリシティ・マインデッドな男だということも私は知っていた。こいつを利用すればいいんだ。私は頭の中で、一瞬のうちにロッキーを口説き落とすプランを考えついていた。奴の虚栄心、自分を売り出したがる性癖、これを徹底的に利用すればいい。
・・・・・・次号更新【ロッキー・青木】に続く
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『虚実皮膜の狭間=ネットの世界で「康芳夫」ノールール(Free!)』真の虚業家の使命は何よりも時代に風穴を開け、閉塞的状況を束の間でもひっくり返して見せることである。「国際暗黒プロデューサー」、「神をも呼ぶ男」、「虚業家」といった呼び名すら弄ぶ”怪人”『康芳夫』発行メールマガジン。・・・配信内容:『康芳夫の仕掛けごと(裏と表),他の追従を許さない社会時評、人生相談、人生論などを展開,そして・・・』・・・小生 ほえまくっているが狂犬ではないので御心配なく 。
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