人格は代理できない(2)

『諸君!』昭和57年(1982年)12月号より

『諸君!』昭和57年(1982年)12月号より

「沼正三」は日本文学史に異彩を放つ存在として残るものだと私は思っている。沼正三名で書かれた多くの作品について、どこからどこまでがあなたの手になるものか、それを判然とさせることもまた、あなたの読者に対する責務ではあるまいか。

ちなみに、いま発売中の雑誌『潮』十一月号に沼正三作のショート・ショートが掲載されている。文章も内容も、およそ児戯に類する出来栄えである。倉田判事よ、いや、ホンモノの沼正三よ、これもまたあなたの作品なのですか?

聞けば、あなたのお仲間も、そのあたりを知りたがっているらしいではないか。前号発売三日目の十月四日、東京高裁において裁判官会議が開かれ、あなたは今回の件に関して事情を訊かれたはずだ。

「倉田さん、あなたはあの発売小説の作者なのですか?」

「いや、関係ありません」

「そうおっしゃるが、天野哲夫という人物はあなたの協力を得てあの小説を書いたと言明している。それを『関係ありません』とはどういうことなのですか」

「・・・・・・」

あなたは、ひたすら沈黙を守るだけであったという。

沼正三よ、未完のままの『家畜人ヤプー』を完結させていただきたい。それがせめてもの、あなたが犯してきた過ちの償いになるなどといえば、釈迦に説法と叱られようか。

いま私の手元に、沼正三からの手紙が数十通ある。そのうち二、三通は、前号に必要あって紹介した。『家畜人ヤプー』は日本文学史に確たる位置を占めている。作者・沼正三はいまや社会的存在である。

多くの沼文学愛好家・研究家のために、私は次号で手持ちの「沼正三からの手紙」を公開したい。

・・・次号更新【『諸君!』昭和58年(1983年)2月号:「家畜人ヤプー」事件 第三弾!沼正三からの手紙:森下小太郎・・・連載31】に続く