プロデュース(康芳夫)
ノストラダムス(原作)
ヒトラー(演出)
川尻徹(著)精神科医 川尻徹
異母兄アロイスの放蕩の果ての姿(2)
「女性を寄せつけなかった、ストイックなところのあるヒトラーとは正反対ですね」
「うむ。では、この写真に写っているような威厳と風格を備えた男が、放蕩児アロイスだとすると、話がまとまらないじゃないか。精神科医の立場からしても、このようにストイックで貴族的な男が放蕩三昧の生涯を送った経歴を持つとは思えない」
「そういわれれば、そうですよね・・・・・・」
「私に言わせれば、ベルヒテス・ガーデンでうたた寝している、太って締まりのない、粗野な印象を与える写真のヒトラーのほうが、伝えられるアロイスニ世に似ていると思うね。
ヒトラーの病歴カルテというのが残されているが、それによると一九四〇年代に入ってからヒトラーは健康が悪化し、高血圧、肝炎、顕著な記憶障害、パーキンソン氏病初期症状、右硝子体出血、冠動脈硬化、粗大震顫の増強、下肢跛行、流涎−−−つまり、よだれを垂れ流すことだな、それくらい多彩な病状が発現している。
カルテでは糖尿病と梅毒を否定しているが、どうも私は、さっきも言ったように、実際のところ梅毒だったのではないかと思うね。パーキンソン氏病というのは、中枢神経系の錐体外路系に病変が起きて、顫えたり、思うように体を動かせなくなる病気だが、梅毒が進行した段階でも同様なパーキンソニスムスという病状が発現するからだ。アロイスなら歓楽都市パリで暮らした暮らしたこともある遊び人だから、梅毒に感染していたことは、充分考えられる。
そうすると、最終段階における、まるで廃人のようなヒトラーの症状が解明できる。あれは異母兄アロイスの放蕩の果ての姿だったのだよ・・・・・・」
・・・・・・・・・次号更新【ヒトラーの影武者さえ、ノストラダムスは予言していた】に続く