『滅亡のシナリオ』:プロデュース(康芳夫)

プロデュース(康芳夫)
ノストラダムス(原作)
ヒトラー(演出)
川尻徹(著)精神科医 川尻徹

異母兄アロイスの放蕩の果ての姿(1)

「いや、よく見てほしい。母斑や顔の輪郭以外にも、実体のアドルフ・ヒトラーであることを証明するものがある。それは威厳と迫力だ。見てごらん。まるでプロシヤ貴族を思わせる品格が発散されているではないか。それに、この写真で彼は、光線の来る方へ顔を向けながら目を見開いている。これは意志の強い人間でないとできないことだ。着ている服も体に合ったものだが、特に注目してほしいのはワイシャツの襟だな。ちょっとシワになっているだろう?これはネクタイをキッチリと締めているからだ。意志の強さがネクタイの締め方に表現されているわけだ。このような人間が、アロイスニ世であるわけがない!」

「どうして、そう言いきれるんですか?」

「アロイスニ世は、アドルフ・ヒトラーより七歳上だったが、全然違った性格の持主だったのだよ。一八九六年に一四歳で家出してから給仕などをしていたが、一九〇二年、窃盗を二回やって入獄している。一九〇七年にはパリで生活し、一九一〇年頃は、アイルランドのダブリンでウエイターやら剃刀のセールスマンをしていたらしい。

一九二〇年代には、ダブリンで結婚した妻を捨ててドイツへ戻っていたが、ハンブルグで重婚罪で訴えられ、六ヵ月入獄しているんだ。一九三◯年代後期からは、ベルリンでティー・ハウス『アロイスの店』を経営して、身を立てていたという。

こういった経歴から見て、アロイス・ヒトラーなる男は、軽薄で意志薄弱、しかも女好きだったことが分かる。典型的な放蕩児だな」

・・・・・・・・・次号更新【異母兄アロイスの放蕩の果ての姿(2)】に続く