『血と薔薇』1969.No4

『血と薔薇』1969.No4

ベストセラーの仕掛け人として---『家畜人ヤプー』:2

このきっかけは私が神彰と作ったアートライフの出版部門だった「天声出版」だった。そこで私は澁澤龍彦を編集主幹にすえて「血と薔薇」という雑誌を発行していたのだ。当時のお金で一〇〇〇円というとても高価な雑誌で、奇抜な装丁や特異な執筆陣で大変話題になって、意外にも良く売れた。ただ、本業のアートライフが傾いて四号で休刊してしまったのだが、その最後の号に『家畜人ヤプー』を掲載したのだ。

この作品をはじめて私のもとに持ってきたのは三島由紀夫だった。それまで私もこの作品の存在を知らなかったが、「康さん、この作品はすごいよ。だまされたと思って読んでみて」と興奮ぎみに熱心に勧めてくれたのだ。はじめて読んで「これはすごい!」と感嘆してしまった。とにかくすごい小説だった。その作品力はあらゆる要素を包括していた。特異な想像力。最高のインテリジェンスを感じさせる知識。生物学、人類学的な深い造詣。卓越した語学力によるレトリック。そして何より「白人対黒人、黄色人種」といういまでもまったく解決のメドがたちようのない人種問題を根底にすえたテーマ性。そしていままで日本では通俗的にも一般化されていなかったSMの世界の新鮮さ。このような作品はかつて一度も読んだことはない。

プロットも明確で、それらの深いかかわりを無視しても小説として完成したエンターテインメント性も感じさせる。この作品を見いだした三島由紀夫の慧眼はさすがといえるだろう。最初に連載された「奇譚クラブ」というSM誌の切り抜きにこまめに自分の感想を書きこんでいた。自分自身が内面に持っているSM性も彼の興味をおおいにかきたてたのかもしれない。

そして彼はこの作品がはじめてといってよい、イエローVS.ホワイトという日本人の深層心理に内在している深い問題にもおおいに触発されていたようだ。

・・・ベストセラーの仕掛け人として---『家畜人ヤプー』(虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝/康芳夫(著)より抜粋):了