ロス五輪に割り込んだ”騒動師”康氏:スポーツニッポン(昭和57年8月4日)
ノールールの世界を相手にする
私は興行の世界に長らく身をおいてきた。いわゆる「呼び屋」稼業というやつだ。その中では世間をあっと驚かすようなことも数多く手がけた。
興行の世界は徒手空拳でゼロからすべてを立ち上げる。言ってみればまったくルールも何もないところで、大きなお金を集め、大物を口説き落とし、世間の目をあざむき、人々をあっと驚かせる。そんなことを何の後ろ盾も資金もなく文字通り身一つ、ゼロの状態からすべてやるのだ。
私の最終学歴はこの日本社会ではブランド価値を持っている東京大学卒業だが、この学歴も興行の仕事には何らプラスに働かなかったし、それを利用しようと思ったことすらなかった。私は、正真正銘、「康芳夫」という名前と素の存在だけで勝負をしてきたのだ。
「後ろに大会社の看板があれば」とか、「社会的信用のある肩書を持ってそれを名乗ろう」とか、そんな発想はただの一度もしたことはなかった。それが私の生き方だと思ってやってきただけである。
そんな生き方をしてきたから、世間の紋切り型の決まり事や常識で自分をしばることなどなかった。むしろ、私がその都度、「康芳夫」というルールを作り、次の瞬間には自らそれを壊し、また新たに作りなおすということを繰り返しやってきたような気がする。
今、我々を取り巻く社会は、どんどん旧来の秩序やルールがひっくり返って、これまで見たことのないような巨大なノールールの世界が新たに浮上してきているように感じられる。
・・・以上、虚人のすすめ―無秩序(カオス)を生き抜け (集英社新書)より抜粋