都市出版社版『家畜人ヤプー』(1970年発行)

「家畜人ヤプー完結版(ミリオン出版)」より---沼正三・・・5

ただ、誰でも言うことだが、長編小説は必ずしも当初の目論見の通りに進行してゆくものではない。作中人物が勝手に動き出し、喋り出すからである。この作品も、三十余年前(昭和三十一年)執筆を開始した時の腹案では、第一部で、ジャンセン一家がシシリー島の別荘水晶宮での滞在を終わり、ポーリーンとドリスとの賭に決着が付き、そこでクララとウィリアムとが婚約した上で出発する日までの一週間を大枠として、登場人物を紹介し、第二部で、その登場人物たちの争い(本書末尾のパラグラフで触れたような)を描くつもりであった。それが、一場面一場面意外に手間がかかってしまい、結局ご覧の通り、正編・続編二冊かけて、クララと麟一郎とがUFOに入ってから次の日の夜半まで、三十余時間の経過で終わらざるを得なくなった。目算は大狂いだし、腹稿に照らしての不満も残る。

第二部の筋書では、リンとクララとの不正入国を知った軍治派が文治派追い落としの切札になる証拠物件としてリンを誘拐するが、彼は脱出して、ジャンセン家との関係は隠したまま、ある平民家庭に匿われる。女家長がリンを自分の所有物としてそれを担保に融資を受けようとすることから、譲渡や抵当の対象となる畜体への入墨と畜籍簿記入を行う畜籍登録所の現業状況が---白人職員との差別待遇を甘受する黒奴労務者の勤務ぶりを反映させつつ---描かれる筈だった。ドリスが二◯世紀球面から連れて来て放ったタロの鼻は隠れ家の旧主リンを嗅ぎ付けるが、女家長はタロがヤプーより遥か上位の家畜である旧犬(カニス)と知って珍重し、これにかしずくようリンに命じる。彼は、Enoch George Odner こと役の行者小角の活躍で救出される日まで、昔の飼犬への倒錯的奉仕を強制され、雌犬代用で尻をタロに犯されたりする・・・・・・・そんな場面も含まれる構想だった。

・・・次号更新【「家畜人ヤプー完結版(ミリオン出版)」より---沼正三】に続く

−−−

−−−