『諸君!』昭和57年(1982年)11月号:衝撃の新事実!三島由紀夫が絶賛した戦後の一大奇書『家畜人ヤプー』の覆面作家は東京高裁・倉田卓次判事

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沼正三の正体

ところで、沼正三の正体だが---もちろん、私は沼正三の本名を知っている。当初、私自身も天野氏が沼正三とイコールではないのかと感じたということは前に書いた。しかし、そうではないのである。たしかに、『ヤプー』の一部は沼正三の許可を得て天野氏が書いたから天野氏が沼正三であると言っても完全にまちがいというわけではないが、沼正三はもうひとりいる。

予想もつかぬ人物である。文壇との関係は一切ない。現在四十何歳、東大法学部出身、某官庁の現役の高級官僚---今の時点では、ここまで明かすのがせいいっぱいである。本人がマゾヒストであることはまちがいない。

私が、これ以上明らかにしないのは何故か。もちろん、本人の社会的立場への影響ということもある。だが、もっと大きい理由は、私は、仮構の上に立ったフィクショナルな人格沼正三を、大切にしたいからなのである。もともと人生はフィクションであり、世界も、フィクションである。この世で信ずるに足ることは唯一つ、無際限なるイマジネーションの世界であり、フィクションの世界だけであるからだ。