拝聴 康芳夫先生「神を呼ぶ男」:Fukujin N0.11 2006

拝聴 康芳夫先生「神を呼ぶ男」・・・29

康 ところで話がまったくとぶけどいいかな。福田の恩師だった江藤淳に彼が世話になったことは事実だよ。でもね、江藤淳と福田和也は似ても似つかない。例えば江藤は日本浪漫派をまったくわかってない。いろいろ書いてますけどね。だから、江藤の弟子といわれることに福田はかなり当惑しているのではないか。サブスタンスとエクステンションがまるで違う。江藤は精神構造上、女々しい男ですね。右の江藤、左の大江健三郎。精神構造が非常に似てるんだよ。

大体、成熟と喪失というテーマは江藤にとって終生の課題だったでしょうが、いくら文芸評論家だからといってこのテーマにこだわり続けたということは、彼がこのことに関して初歩的レベルでトラウマとコンプレックスを抱いていたということだ。それを克服できないから、女々しくヒステリックにがなりたてる訳ですよ。

上杉 あれはいいと思います。

康 文学者だから女々しさということについて、これは福田とも坪内祐三とも話したんだけど、というのは彼等は大江の問題を『SPA!』対談で取り上げていたから。文学者が女々しいってことについては問題じゃないんです。でも、彼の女々しさは違うんだよ。もっと猥雑というか、ひねくれちゃってる。本来、文学者が持ってる女々しさは大事なことなの。僕は全然それを否定しない。彼は違う。それが災いしてか『万延元年のフットボール』あたりから初期の大江作品に満ちていた「イマジナシオン」が失われてつまらなくなったね。

拝聴 康芳夫先生「神を呼ぶ男」:Fukujin N0.11 2006

・・・以上、拝聴 康芳夫先生「神を呼ぶ男」:Fukujin N0.11 2006 より抜粋

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『Fukujin ~漬物から憑物まで~』明月堂書店

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