拝聴 康芳夫先生「神を呼ぶ男」・・・26
康 北一輝は当時の不逞のやからだよね。支配階級が一番怯えていたのは、最終的に自分が天皇になるって野望を抱いていたこと。三島由紀夫なんかはそのあたりを生理的に見抜いていた。だから北一輝を毛嫌いしたんだ。松本健一はよくわかってない。国家改造法案っていうのはつまるところ自分が天皇になるって話なの、昭和天皇は単なる「玉」にすぎない。まさに不逞不敬のやからもいいとこだ。さしずめ言ってみれば「人外魔人」というあたりだろう。ああいう不逞のやからには花田清輝くらいじゃないと対応できないね。
秋山 不逞のやからに対する尊敬の念が足りない(笑)。
康 そうそう。尊敬も含めて、松本健一に了解のエクステンションが足りないんだよ。花田清輝の有名な文句があるでしょ?「北が打った球がファールかホームランかわからない」っていうの。場外大飛球ということだ。審判も見えないんだから、これは花田にして初めて言える言葉なんだよね。今、北に対してそういうこと言える人いないじゃない。
上杉 正しい評価ですね。
康 それはどうかわからないけど。
上杉 松本さんって僕の一つ上で、昔から親しいんです。
康 松本君も重要な岐路に立っちゃったよね。
櫻木 あのまま変なイデオローグになっちゃうとまずいですよね。
康 なっちゃったわけです。イデオローグというか、ナショナリスト市民主義者になったわけです。橋川文三や竹内好に影響受けているでしょ?橋川も竹内も僕はすごい人だとは思わないけど、それなりの「役割」を果した人達ではある。あの二人にインパクトを受けたんだからもう少し伸びるかと思ったけどいわゆる市民的良識にはまって固まっちゃったね。北一輝に対応するならもう一つ大きくならないと。解釈のレベルが低いんですよ。北一輝はあんなもんじゃないんだから。上杉さんは中沢とか松本と親しいようだから、カツ入れてくださいよ。
・・・以上、拝聴 康芳夫先生「神を呼ぶ男」:Fukujin N0.11 2006 より抜粋
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『Fukujin ~漬物から憑物まで~』明月堂書店
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