虚業家宣言:康芳夫

———
虚実皮膜の狭間=ネットの世界で「康芳夫」ノールール(Free!)
にて【虚業家宣言】先行配信中。
———

虚業家宣言(12):金平正記氏との対決

◆金平正記氏との対決

だが・結局、神さんの顔を立てて私は大高記者にこれまでの経過をすべてブチまけた。

「対戦相手?フロイド・パターソンさ」

彼は信じられぬという表情で、一瞬、ポカンとしていた。それから一言、

「かつがんでくださいよ」

だが、私が事実を一つ一つ具体的に話していくにつれ、彼の表情が真剣になってくるのがわかった。

「証明するものがありますか、康さん」

私は、日本ボクシング・コミッショナーの真鍋八千代氏にはすでに話を通してあること、そして、会場として、五月末に、十万人収容可能な代々木のオリンピック・スタジアムを押えていることまで打ち明けた。

その晩の九時近くである。大高記者が『報知』運動部のデスクと共に、再び取材に現われたのは。

私の話を聞くと、すぐに大高記者は、真鍋コミッショナー、それにオリンピック・スタジアムに確認に飛んだらしい。むろん答えは「イエス」しかない。

そこで、大慌てで、デスク帯同のうえ駆けつけたというわけだった。

翌朝『報知』の大スクープ。一面ブチ抜きで大きな活字が踊っていた。

《クレイ来日決定!相手はパターソン》

《『アート・フレソド』の康氏がプロモート!》

いちばんビックリしたのは協栄プロモーショソの金平氏だったろう。てっきり、自分がやりかかっていたのを横取りされたと思ったらしい。すぐに声明を発表した。

「神氏も康氏も、ボクシングのプロモーター・ライセンスを持っていないはずだ。しかも、神氏のところは資金的におかしくなっているというではないか。試合が実現することはあり得ない。この発表には何か別の意図があるにちがいない」

『報知』の大スクープでいささか頭にきていたのだろう。他のスポーツ紙は、すぐにこの金平氏の話に飛びつき、筆をそろえて、クレイ戦を否定にかかってきた。

《実現の可能性ナシ》

《またもデイ・ドリームに終わるか》

《康はクレイに負けないホラを吹いた!》

まったく無責任に書き散らしたものである。私は腹もたたなかったが、神さんは相当カッカときていた。

意外だったのは『日本ボクシソグ協会』の反応だった。『報知』のスクープが出るとすぐに協会も、クレイ戦を否定し出したのだ。協会の規約をたてにとっていた。

確かに、協会の規約には次のような項目があることはある。

一 条 協会発行のライセンスを持ったもの以外は日本に於けるボクシソグ興行をしてはならない。

十四条 外国人選手同士の試合は禁ずる。

私もそれを知らないわけではなかった。私がボクシング・プロモーターのライセンスを所有していないのは事実だ。

しかし、大局的に見た場合、クレイ戦は、必ず、日本ボクシング界にとってプラスになると私は思っていた。低迷している日本ボクシング界に活を入れる絶好のチャンスではないか。私は、ケツの穴の小さい、既得権を守ることだけに汲々としている『日本ボクシング協会』に愛想が尽きた。これじゃあ、中世のギルドだ。

・・・・・・次号更新【”ホラ”をぶち上げて金を集める】に続く

◆バックナンバー:虚業家宣言◆