都市出版社版『家畜人ヤプー』(1970年発行)

割腹(1)もうひとつの家畜人ヤプーの世界!!日本初の高級SMクラブ『家畜人ヤプーの館』(連載5)

「マスター、まあ夕べは一睡もできなかったわよ。だってさ紀尾井町のニューコタニに泊まったんだけどさ、隣のお部屋からさ、あれの声というの? よがり声というかさ、それも一対一とかいうんでなくてよ、豪華絢爛よね。一人だけおじんの声でさ、あとはいきのいい若人の声が三、四人かな。それも体育会系ぽくってさ、自分はもう何とか何とかです、とかね。次は自分も行きますとかさ、最高っす。明日はどうなってもいいです。吹っ切れましたとかさ。特攻隊の映画のさ、突撃前のワンシーンを思わせるような空気でさ、いろいろとわけのわかんない、言葉にならない叫びが延々と続くのよ。夜っぴてよ。もう勘弁してよって感じ。

でも不思議とね卑猥とか猥褻な感じはしなかったわね。むしろプロレスのバトルロイヤルって感じかな。入り乱れているようでも何か統制がとれていたみたいでさ、それもタイトルがかかっていて、切羽つまりながらも究極技の応酬で真剣勝負という感じ。ああそうそう、おじんのことを若人たちがね先生と呼んでたかしらね。先生と呼ばれる人種ってさ、往々にしてさ、教師にしても坊主や医者なんかも助平が多いっていうじゃない? そんなわけでさ、高いお金払ってさ、優雅な一夜を過ごしてさ、英気を養うつもりだったのにさ、台なしだったわよ。お化粧のノリが悪いったらありゃしないわよ」

と初対面の客が、長広舌を振るってマスターの丸木戸貞男に語りかけてきた。声の調子はさほど大げさではないが、ゲイ特有の低音で周りの人の耳目を集めていることを十分意識しつつ、話の内容の過激さの反応を楽しむかのように、貞男に話しかけてきた。

・・・次号更新【『家畜人ヤプーの館』 official HP ヴァージョン】に続く

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