戦後の文学界に衝撃 マゾの奇書「家畜人ヤプー」覆面作家は高裁判事 東大卒のエリート

康芳夫、沼正三(『家畜人ヤプー』原作者)を語る(1)

彼は、完全な性的異常者だった。しかし、それだって我々が異常って呼んでるだけで、彼からみればいたってノーマルな世界。マゾヒストであるってことは、彼にとっては何でもないことだよね。ただ、世間がつまはじきにするから異常になっちゃうだけで、それはサディストも、性同一性障害その他諸々、全部そう。思想的に反体制的なことに興味を持つとか、それはもちろん普通の人よりずっと強かったわけだけど、政治的性的アナーキストでしたね。あとはディープな躁鬱病で、一度鬱になると2、3ヶ月はジーッとしてしまって、病院に入ってしまうこともあった。

僕は『奇譚クラブ』に書いていた同人を妙な縁で何人か知っていて、「康さん、『家畜人ヤプー』って面白い小説があるから是非読みなさい」ってことを言われていた。それで、読もうと思ってるうちにチャンスを逸して、後で三島が推薦をしてきた時、「ああ、あの小説のことを言ってるんだな」と。彼は「『血と薔薇』に載せたら最高に面白いよ」って言ってきたんだけど、その頃に『奇譚クラブ』は休刊になってたから、なかなか探すのが難しいということもあった。

・・・『虚人と巨人 国際暗黒プロデューサー 康芳夫と各界の巨人たちの饗宴』より抜粋

-三島由紀夫氏-

昭和四十四年、『ぜひ、あれを見つけ給え。あれこそは戦後最大の傑作だよ。マゾヒズムの極致を描いたまったく恐ろしい小説だ。出版する価値のある本だ』そう三島由紀夫は小生に熱を込めて家畜人ヤプーの内容を語りつづけた。

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一九七◯年 三島由紀夫氏(『潮』七月号より)

戦後の日本人が書いた観念小説としては絶頂だろう・・・・・・・・・この小説で感心するのは、前提が一つ与えられたら世界は変わるんだということを証明している。普通にいわれるマゾヒズムというのは、屈辱が快楽だという前提が一つ与えられたら、そこから何かがすべり出す。すべり出したら、それが全世界を被う体系になっちゃう。そして、その理論体系に誰も抵抗できなってしまう。もう政治も経済も文学も道徳も、みんなそれに包み込まれちゃう。そのおそろしさをあの小説は書いているんだよ

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