人騒がせなクレイ(1)
さて、いよいよ本番である。
対戦相手のフォスターが一足先の三月十日に来日。クレイに劣らぬ大口をたたいて、マスコミの目を集中するのに成功した。彼は羽田に着いたとたん、クレイについての記者団の質問に答えて、
「アイ・ドント・ライク・ヒム。奴のデカい口にフタをしてやるぜ」
とやったものだ。新聞は大喜びで、報道する。もちろん、これも私の演出である。フォスターは私が教えたとおりのことを、口うつしに言っていたに過ぎない。
この頃から、入場券もよく売れるようになって私は安心した。
というのは、二月十六日から、都内プレイガイドでいっせいに発売開始した入場券の出足が、もう一つ伸びず、実のところ、多少、心配になっていたからだ。
クレイ戦の切符が売れぬわけがないと確信してはいても、初日の出足が、総枚数一万四千枚のうち、プレイガイド配布が六千枚、そのうち売れたのがたった二十七枚と聞いたときには、まったくガックリした。初日の出足が興行の成否を占うというこの世界の常識からすれば、完全に否と出たのだ。その後もどうも出足はかんばしくなかった。それがフォスター来日とともにグッと売れ出したのである。
そして、試合のキッチリニ週間前の三月十六日、ついにクレイが来ることになる。
しかし、私の親しい友人でブレーンの一人といってもいいある雑誌の編集者さえこう言った。
「羽田に着くまではわからんぞ。着いても、ホンモノかどうかわからん」
当日が近づくにつれ、私はだんだん心配になってき、とうとうロスアンジェルスまで迎えに出てしまった。
マイアミから来たクレイ一行と、ロスの空港で会ったときはホッとしたものだ。ロッキーー行もチャッカリついて来たのにはビックリしたが。
だがクレイという奴は、最後の最後まで人騒がせな野郎なのだ。
ロッキーが用意した四台のキャデラックを連ねてホテルから空港へ向かう途中、突然、
「オレは気が向かないから、一日遅らせる。ホテルに戻ろう」
と言い出したのだ。
それを、やっとのことでなだめすかして、空港に着くと、今度はタイアップしていた日航機がエンジン・トラブルのためフライト中止だという。
私は泣きたくなった。
すぐに、パンナムに問い合わせたが、東京行の便のファースト・クラスはすでに満席だというツレナい返事。
「エコノミーなら、空席があるそうだから、それで勘弁してくれ。緊急事態だから・・・・・・」
だがクレイの返事はニベもない。
・・・・・・次号更新【人騒がせなクレイ(2)】に続く
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『虚実皮膜の狭間=ネットの世界で「康芳夫」ノールール(Free!)』真の虚業家の使命は何よりも時代に風穴を開け、閉塞的状況を束の間でもひっくり返して見せることである。「国際暗黒プロデューサー」、「神をも呼ぶ男」、「虚業家」といった呼び名すら弄ぶ”怪人”『康芳夫』発行メールマガジン。・・・配信内容:『康芳夫の仕掛けごと(裏と表),他の追従を許さない社会時評、人生相談、人生論などを展開,そして・・・』・・・小生 ほえまくっているが狂犬ではないので御心配なく 。
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