森下君は実は何にも知らないのだ・・・・・・(3)
さて、そのように仮設人格の創造に成功してみると、その名で創作的欲求をも満たしてみたくなった。それが『家畜人ヤプー』として結実する。構想は古くから持っていた。が、改めて骨組みし、肉をつけ、何章分かまとめてそのストーリーを語らい、血を通わせる上での知恵をお借りした向きも何人かある。諸文献に通暁すること現代の南方熊楠にも比定すべきか、万巻の書中を縦横に遊び尽せる達識のK氏もその一人であった。氏は、性心理学書に詳しく、クラフト=エービングやヴィルヘルム・シュテケルの読み手としては当代屈指とさえ思うが、それは、氏の余技の一部にすぎない。私の、氏より得る所、量り知れぬものがあるが、それ以上のインチメートなものではない。
・・・次号更新【「家畜人ヤプー」贓物譚(ぞうぶつたん)・・・『潮』昭和58年(1983年)1月号より・・・連載7】に続く