都市出版社版『家畜人ヤプー』(1970年発行)

隠遁作家のパフォーマティヴ:畜権神授説・沼正三『家畜人ヤプー』と日本神話の脱構築:巽孝之・・・その4

1.隠遁作家のパフォーマティヴ

これまでの『家畜人ヤプー』を語る試みにおいては、「隠遁作家」というスキャンダル自体を回避するわけにはいかない。

要因のひとつとしては、アメリカに比して日本では「隠遁作家」という不在の存在すらかぎりなく不在に近いという現状が挙げられよう。ピンチョンがMIT学者チームかサリンジャーかと騒がれるは、作品の熱狂的愛読者・研究者による半ば恒例化したジョークといった観があるが、沼正三の場合、むしろ作品の本質とは無関係に、その正体は三島由紀夫かイザヤ・ベンダサンかと詮索する、ひたすらマスコミ主導の狂騒曲がつづく。こうした藪の中ならぬ「ヤプーの中」で、やがて「真の作者」なるものを東京高裁判事K氏に特定する動きが強まると、それに対して沼正三代理人の天野哲夫氏が「沼正三は私だ」と名乗りあげ、K氏との交遊関係を含めて「大人のアソビ」と片付けたこともあった。もちろん、だからといって正体探しは決定打を得たわけではなく、むしろこのようにすべてを「大人のアソビ」と言い切る天野氏の言説自体が「大人のアソビ」の部分でないとは、誰にも断言で断きない。

・・・畜権神授説・沼正三『家畜人ヤプー』と日本神話の脱構築:巽孝之 より・・・続く

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風俗奇譚(昭和45年7月臨時増刊号)小説 沼正三【著:嵐山光三郎】

いまはやりのSF小説の先駆、気宇広大のマゾヒズム文学の金字塔とうたわれる『家畜人ヤプー』の著者はナゾの作家としてヴェールに包まれている。そのナゾときに体当たりする問題作!

風俗奇譚(昭和45年7月臨時増刊号)小説 沼正三【著:嵐山光三郎】

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