沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)

劇的な人生こそ真実―私が逢った昭和の異才たち

沼正三のプロペラ航空機・・・4

「邪宗門」では、

紙芝居屋 わたしはかくれんぼの鬼です。もう何十年ものあいだ、かくれた子供をさがして歩いています。

孝女白菊 かくれた子供を?

紙芝居屋 神かくしというのでしょうか?いなくなった子供は、鉦太鼓を叩いても出てきません。わたしは、これを吹く。(呼子笛を吹く)

孝女白菊 でも、かくれんぼを終って、とっくに家に帰ってしまったのではありませんか?

となっている。探している鬼は孤独に、いつまでも探し続けているというイメージだ。

「青ひげ」では、冒頭がかくれんぼだ。

暗黒の琵琶

地獄の照明

五人の女の子がしゃがんで目かくししている。

紅粉、そして髪には葬儀の花輪から盗んできた花をかざっている。

「もういいかい?」

五人とも、かくれんぼの鬼である。

遠くから

「まあだだよ」

という声が答える。

となっている。

予供の頃転居先の青森で、毎日かくれんぼの鬼をやらされた苦い記憶があるらしい。いじめのようなもので、寺山さんを鬼のままにしてみんな家に帰ってしまうのだ。自分だけが子供のままで、後の人はみんな大人になってしまう。芝居や映画によく出てくるそんなイメージは、この時の体験からだろう。

・・・次号更新【沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)より】に続く