虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝/康芳夫(著)より
契約書との格闘(3)
基本的なポイントのギャラや来日の日程、宿泊条件、飛行機のファーストクラスのメンバーなどはそうたいした問題ではなかった。問題なのはその他付加条件がこと細かく書いてあることだ。これが欧米の契約書と日本の契約書の根本的なちがいだ。
たとえば、頭を悩ました表現に「act of God」というのがあった。ゴツドは神。つまり、これは「予測不可能な事故」という意味なのだ。いわゆる「beyond the control」と同義語で、人知の及ばない事象という意味だ。その場合には前払いしたギャラはいっさい返却しない、というように細部にわたって付加条件が記述してある。その項目に「escrow account」という文字があった。これがわからない。エリートの銀行マンに訊いても「聞いたことがない」といって首をひねるだけだ。かたっぱしから辞書を引いたり、商社に問いあわせたりと苦労して、やっとその意味がひもとけた。これは、コンディショナルデポジットといって、条件付委託という意味だった。つまり、ニューヨークの銀行に前払いでお金を払い、その中から一回の公演が終わるたびに、そのつどギャラが相手の口座に振りこまれるという仕組みだ。
当時、ソニー・ロリンズのギャラは一回あたり二〇〇〇ドルで一二回公演の契約だった。金曜日に一公演が終了すると、一回分のギャラが自動的に前金で支払ってあるニューヨークの銀行から彼のプロダクションに支払われる。全部、無事終了した時点で全額ギャラが相手に支払われる、というわけだ。非常にアメリカらしい合理的な決済方法だ。
・・・次号更新【『虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝』 official HP ヴァージョン】に続く
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— 康芳夫(国際暗黒プロデューサー) (@kyojinkouyoshio) January 10, 2017
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