沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)

劇的な人生こそ真実―私が逢った昭和の異才たち

沼正三のプロペラ航空機・・・19

帰り際、松田暎子がトイレに立った。

すると沼さんも立ち上がった。私は参ったなあ、と思った。康さんを見ると笑っている。

当然でしょう、の顔である。

しばらくして、2人が帰ってきた。変わった様子はない。

飲み会が終った。

外に出てすぐ私は、

「おい、沼さんに頼まれた?」

と彼女に訊いた。

「だって、断れないでしょ」

と言って、彼女はニコッと笑った。

舞台人の、女性の、飛翔力と逡巡のない突破力。

芦川羊子も松田暎子もハイヒールを履いた空港の巨大な女性のようであった。

・・・【沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)より】了

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