沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)

劇的な人生こそ真実―私が逢った昭和の異才たち

沼正三のプロペラ航空機・・・16

後日、康さんと沼さんとで飲んだことがあった。たしか3人で打ち上げでもしようか、ということだった。1ヶ月位後だったと思う。

電話で康さんに、誰か劇団の女優さんでも連れてきてよ、とリクエストされた。1976年に大島渚監督の「愛のコリーダ」に主演した松田暎子を連れて行った。

彼女は市川魔湖という芸名で天井桟敷のメンバーになっていたけれど、映画出演が決まってから名前を松田暎子にしたのだった。日本人離れした顔の小さい、足の細いかわいい子だった。沼さんが描く白人に似ていると私が勝手に思って、彼女に同行を頼んだのである。

道すがら私は、

「沼さんがオシッコ飲ませてと言うかもしれないぞ」

とおどかした。

彼女はケラケラと笑った。大人の、中年女性の対応である。当時まだ20代前半だったと思う。女優はみんな10歳ゲタを履かせると、実情にあった年齢になるものだ。

康さんも沼さんもパーティーが大盛況だったことに満足していた。マスコミも写真が撮れたことで納得したという。本の売り上げは順調らしい。マンガにしたり映画にしたりと康さんには次の展開のアイディアが楽しそうだった。

・・・次号更新【沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)より】に続く

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