沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)

劇的な人生こそ真実―私が逢った昭和の異才たち

沼正三のプロペラ航空機・・・15

実は後日この様子を、私は16ミリのムービーで見た。どういう経緯だったか記憶にないのだけれど、カメラマンの沢渡朔さんがムービーを回していた。沢渡さんも取材のカメラマンに押されたらしく、画面が揺れ動いて安定しない。クライマックスはクローズアップで、ひたすら一筋の光が落下するという画面だった。私が映画館で見たのと同じことがパーティー会場で再現されたのだ。

言われてすぐ出来る芦川さんはすごい。数年後に彼女は2年連続で舞踊批評家協会賞を受賞するのだけれど、この日の私はダンサーとしての表現力や技量などという評論言語を超えたパフォーマーの突き抜けた清々しさを見たような気がした。

控え室に引き上げてきた彼女は、もう憑き物が落ちたようになって含羞と疲労の表情を浮かべていた。男は少し下向き加減で放心の態である。

ふと彼の白いパンツを見た。真ん中にしみが出来ている。射精したのだ。この白い濡れたブリーフが忘れられない。本物を目撃したという充足感だったのか。1本の管になる事が快楽に直結する。それは本当だったんだという感動だった。倒錯と異常が消える。ひとつの性的な趣向がある。そういう事実を受け入れたのだと思う。

この日は、沼さんも会場に来ていた。隅のほうに隠れるようにしていて誰とも挨拶を交わさない。自分の著書の大きな反響に満足そうだった。それを顔の後ろにじっと押し込んでいるような様子である。

主催者として立った康さんは、マイクに向かって作者は謎だということを何度も強調した。

隠し事の楽しさを味わっているように見えた。

・・・次号更新【沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)より】に続く

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