沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)

劇的な人生こそ真実―私が逢った昭和の異才たち

沼正三のプロペラ航空機・・・5

劇団員も数人がコンサートの仕事をサポートした。

私は寺山さんが作詞した曲と「男と女の数え唄」のバックに流す映像を16ミリのムービーカメラで撮影した。漫画家の上村一夫さんの『同棲時代』の原画や、日吉ミミのデビューまでのスナップ写真などを素材にして、劇団の稽古場で連日徹夜で撮影し続けた。

コンサート会場が、映画が終わった後の新宿歌舞伎町の東映劇場だったので、スクリーンがそのまま使えたのである。

何日か前に会場を下見することになった。

スタッフ数名で東映の映画館に入ると、まだ映画は終わっていなかった。私は暗い場内に入って後方のシートに坐った。

その時上映していたのが、沼さんが出ていた「日本猟奇地帯」だったのだ。(後で調べるとその映画は「にっぽん’69セックス猟奇地帯」という中島貞夫監督のドキュメンタリーであった)沼正三という名前ではもちろんなく、本名の天野哲夫でもなく、1人の奇妙な匿名のマゾヒストとして自分の姿をカメラの前に晒していた。

・・・次号更新【沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)より】に続く

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