都市出版社版『家畜人ヤプー』(1970年発行)

「家畜人ヤプー完結版(ミリオン出版)」より---沼正三・・・10

石ノ森章太郎氏及びシュガー佐藤氏により劇画化された本がある。右の豪華本に入れた三章分を含めての既発表分を二冊にしたもので、コノハナとサロメとの関係は---責任はもちろん当方にあるのだが---訂正前のものであるから、注意されたい。本続編は正編以上に場面転換が少なく、描写より説明に頼り、全編対話的議論か思念のモノローグばかり、アクションは皆無なので、劇画には一層向かないのではないかと思うが、妄想的な畜体造形の場面については、画像化を期待したい気持ちもある。なにせ私にとっては極楽浄土の事物なのだから。---この種新規の事物と制度に関する、連載を誌上で読む人のための初出章節数字の引照は、通読する人には目障りかも知れないが、正編以来の体裁でもあるので、そのままとした。

最後に、本書出版につきお世話になった方々に謝意を表したい。特にこのような一癖ある出版物については、通常の出版社ではリスクにおびえる傾きがあるのであるが、この続編出版に先立つ雑誌連載当時からの『ミリオン出版』の担当者久保あつ子氏、プロダクション『スタッフプロモーション』主宰者早川佳克氏、一貫してこの本の出版に熱烈な支持を与えて戴いた康芳夫氏、煩雑等を厭わず請けおって下さった緒方大啓氏の理解ある協力を多とするものである。

それは、ひいては正編の出版にご尽力下さった方々への感謝につながる。正編の評価なしには、続編出版もあり得なかったであろうから。『奇譚クラブ』発行者箕田京二、正編初版本刊行者矢牧一宏、共に既に故人であるが、両氏への深甚な謝意は改めて表明するまでもないとして、当時文壇関係において推輓を得たと聞く三島由紀夫・奥野健男・澁澤龍彦三氏の中、初版本の解説を忝なくした奥野氏は今も健在であるが(一九九七年十一月二十六日に逝去)、三島・澁澤両氏は既に鬼籍に入られ、この続編を読んで戴けないのを遺憾とする。又、正編の評価の定着に角川文庫(曾野綾子、イザヤ・ベンダサン両氏の解説を得て、二四刷を重ねるロングセラーになった)という有力な媒体の果たした役割も無視できまい。角川春樹氏、清水真弓(辺見じゅん)氏にも、遅ればせながらお礼申し上げる。

「私は昔からたったひとつのことを言いたくて小説を書き、そのことをもう言いたくなくなるまでは何が何でも書き続けたい。この本は、そのしつこい歴史の基本形です」(吉本ばなな『キッチン』(あとがき)。正編のあとがきになら、これをこのまま借用できたのだが、今私はもう言いたくなくなった。本書を送り出すと同時に、執筆のため作成したイース史年表を破り棄て、沼正三という名と共に用いたペンを折り、この文体とも永久に訣別して、今後の一切は、形影相伴う(正編あとがきでもこう書いておいたのに、読めぬ人が多く、関係のないK氏に迷惑を掛けたので、もう一度強調しておく)友人天野哲夫君に委ねることにする。

本書を謹んで三島・澁澤両位の霊前に捧げる。

一九九一年十月十三日

・・・【「家畜人ヤプー完結版(ミリオン出版)」より---沼正三】・・・了

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