『諸君!』昭和57年(1982年)11月号:衝撃の新事実!三島由紀夫が絶賛した戦後の一大奇書『家畜人ヤプー』の覆面作家は東京高裁・倉田卓次判事

三島由紀夫が絶讚した戦後の一大奇書『家畜人ヤプー』の覆面作家は東京高裁・倉田卓次判事〉と題した論考

今もなお、沼正三=倉田卓次説があるのは森下小太郎が、『諸君』(82年11月号)に発表した〈三島由紀夫が絶讚した戦後の一大奇書『家畜人ヤプー』の覆面作家は東京高裁・倉田卓次判事〉と題した論考のせいである。

「家畜人ヤプー」は『奇譚クラブ』(曙書房 刊)に連載されていたのだが、そこに沼正三が『マゾヒストの手帖」を連載を始めた一月後に、森本愛治のペンネームで連載を始めた森下小太郎に沼から文通の申し込みがあったと、その論考にある。

曙書房の社長に住所を聞いて沼正三からの手紙は届いた。そして、沼正三は、自分の住所を〈飯田市江戸浜町県営住宅七号 原正信様方 倉田貞二〉と書いてきたとある。貞次ではなく、貞二である。

もっとも沼正三は、葉書で、倉田氏がそれを沼に届けてくれると書いていて、倉田氏と沼が同じとはいっていない。

こうして、文通が始まり、やがて「家畜人ヤプー」の構想が記された手紙がきた。

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日付は三十一年十二月十一日。『ヤプー』の第一回が『奇譚クラブ』に載ったのが同年十二月号(発売は前月の十一月)であるから、そのしばらく後の手紙である。

・ヤプー第二回、お気に召したとすれば幸ですが、唇人形(ラブラム)labrum〉の記述その他色々削られたため卒読では意味不明の箇所あり、それで「沼正三だより」の中で一寸断っておきました。

・第三回(次号)は人間便器stooler妄想をめぐる記述ばかりで、ごく一部の人にしか受けますまい。貴兄も次号にはヒンシュクされるかも知れず。

・第四回(三月号)は空飛ぶ円盤の母船なる空飛ぶ円筒に舞台がうつり、(中略=コンテがメモ風に記されている=森下註)となり、身長十四糎の矮人(ピグミー)(ヤプーの変種)を出します。これはいやらしくないから、うけるつもり。

・第五回、矮人決闘 pigmy duel(闘鶏などと同種の遊び)及び地球別荘に着いてからの新事態となります。

・第三回に失望されぬ様、第四回分について申しました。(第五回前半まで送稿)まあ気長にごらん下さい。尤もプライヴェートの時間をひどくとられるので、地球別荘からシリウスに向けて宇宙船が旅立つところで第一部の終りにしようかしらんと考えています。

この手紙が『ヤプー』の作者以外の誰にも書けぬ代物であることは明らかであろう。

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森下小太郎は、沼正三が一九五五年に自宅に尋ねてきたことを書く。夫人に会えることを楽しみにしていたらしいというのは、想像なので省略する。ただ、もう一つの理由として、アルフレッド・キントとエドワード・フックス・共著の「Weiberhershaft(バイバーヘルシャフト)」、邦題「女天下」のドイツ語原書四巻本を読みたがったことをあげている。

・・・次号更新【連載「沼正三」をめぐる謎 高取英】に続く

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