ラスベガス暗黒街のボス・トニー(2)
私は、あるコネを利用することに決めた。このコネを利用する以外に、トム・ジョーンズを日本へ呼ぶことは難しいと判断したからである。
ラスベガス暗黒街を牛耳るマフィアの幹部、イタリア生まれの通称トニー。その本名は誰も知らない。どんなに高名な俳優でも、どんなに一流の歌い手でも、一歩、ラスベガスに足を踏み入れたとたん、トニーの許可なしでは一歩も舞台に立つことはできないと言われている。トム・ジョーンズがシーザーズパレスに出るのも、もちろん、トニーの息がかかっているのだ。
フランク・シナトラはもちろん、サミー・デイビス・ジュニアも、アンディ・ウィリアムスも、ディーン・マーチンも、彼が一言、
「NO!」
と言えば、黙って引き下がるしかない。
かつて、売り出し中のある俳優が、彼が要請したにもかかわらず、ラスベガスの劇場へ出演することを断わった。
「ニューヨークのある劇場から先に申し込まれたため、すでに契約を済ませてしまった。こちらのショーが終わり次第、伺うから勘弁してほしい」
その俳優の主張する理由は誰が見ても正当なものだと考えられた。
だが、それからひと月たたぬうちに、その俳優のマネージャーが、泊まっていたニューヨークのホテルからコツゼンと姿を消してしまった。マネージャーが蒸発する理由はまったく考えられなかった。ホテルの部屋には、彼の荷物がそのまま残されていた。遺書も、手紙も、見つかっていない。
「トニーが何らかの方法で消したに違いない」
という噂が、興行界の情報通の間でひとしきり流れたそうだが、しかし、とうとう警察は一歩も動かなかった。生きているか死んでいるかもわからず、自分で蒸発したのかもしれない男にかかずらわっているほどヒマではない、というのが、警察当局の非公式な声明だったという。
かつて日本の映画界でも、引き抜き合戦のイザコザで、長谷川一夫が顔を切られたり、興行の契約のことで、鶴田浩二が山口組系の暴力団に拉致されて脅された事件があったが、アメリカ、とくにマフィアのやり口はそんなナマやさしいものではない。直接、”商品”にキズをつけるようなバカな真似はゼッタイにしないが、それだけに一層、怖い。
・・・・・・次号更新【真剣勝負から生まれた友情】に続く
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『虚実皮膜の狭間=ネットの世界で「康芳夫」ノールール(Free!)』真の虚業家の使命は何よりも時代に風穴を開け、閉塞的状況を束の間でもひっくり返して見せることである。「国際暗黒プロデューサー」、「神をも呼ぶ男」、「虚業家」といった呼び名すら弄ぶ”怪人”『康芳夫』発行メールマガジン。・・・配信内容:『康芳夫の仕掛けごと(裏と表),他の追従を許さない社会時評、人生相談、人生論などを展開,そして・・・』・・・小生 ほえまくっているが狂犬ではないので御心配なく 。
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