虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝/康芳夫(著)より

虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝/康芳夫(著)より

二つの祖国(2)

私と兄は父の判断で中国籍になった。下の妹は母親と同じ日本籍。なぜ、私たちだけ日本籍にしてくれないんだろう、と真剣に父を恨んだ時もあった。

一九四五年、ようやく、日本の敗戦というかたちで戦争が終わった。中国は第三国といわれる準戦勝国となり、これで家族も落ちついて暮らせるかとおもったら、そうはいかなかった。戦後、また複雑な問題が私のまわりに覆いかぶさってきたのだ。

私の父は最初、蒋介石政権最後の許世英駐日大使の侍従医として働いていた。しかし、一九三七年日中戦争勃発を受けて、日本の近衛内閣は一九三八年に対華声明を出して日本と中華民国との国交を断絶してしまった当然、中華民国の大使館は閉鎖されてしまう。そして日本は、一九四〇年に日本の傀儡政権、南京政府を汪兆銘をバックアップしてでっちあげた。そして、父は今度、その南京政府の大使館の侍従医として働くことになってしまったのだ。当然、断れば日本政府に逮捕されるのは明自だった当時の父には選択肢などありようもない。しかし、おそらく相当悩んだにちがいない。

戦後、蒋介石政府はこの南京政府関係者をいっせいに重要戦犯として逮捕した。中華民国政府にすれば漢民族に対する「売国奴」ということなのだ。容赦なく、関係者は軍事法廷に引っぱられていった、中国語でいう「漢奸」である。

・・・次号更新【『虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝』 official HP ヴァージョン】に続く

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建築家・磯崎新 × 虚人・康芳夫

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建築家・磯崎新 × 虚人・康芳夫「世界的最先端の、文化的思考の片鱗」

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