『滅亡のシナリオ』:プロデュース(康芳夫)

プロデュース(康芳夫)
ノストラダムス(原作)
ヒトラー(演出)
川尻徹(著)精神科医 川尻徹

ナチ高官のカルテが一枚も残されていない!

同じ日の東京新聞にも、その件に関して、特派員が記事を送ってきていた。

---

[ヒトラー遺体は別人]
第二次大戦のベルリン陥落のさい、ソ連軍によって地下壕から発見されたというヒトラーの死体は別人である---との研究結果が二一日、英オックスフォードで開かれた国際法医学会で報告された。

米コネチカット大学歯学部のレスター・ランツ教授が一八年間追跡調査した結果で、「ソ連軍は解剖報告の中で、歯型が一致したためヒトラー本人と断定したとしているが、ヒトラーの歯科診療カルテは今に至るも見つかっていない」と指摘。特に、ヒトラーの二人の歯科医がソ連軍に提出したという五枚のエックス線写真自体が、あいまいであり、他のナチのリーダーたちのエックス線写真は一枚も残っていないことからも、きわめて不自然であるとしている(ロンドン/小出特派員)。

---

二つの記事を組み合わせて考えると、ソ連が地下壕から発見した死体は、死因が青酸系毒物によるもので、遺体確認の決め手になる歯型カルテなどの証拠書類は、その時から今に至るまで発見されていない。

死因が毒物だとすると、ヒトラーは銃で自殺した---という、いろいろな報告や記録とすべて矛盾してしまう。

(しかも、この発表と同時に、かつてヒトラーの死を発表したライダー教授が亡くなるとは・・・・・・。何か、因縁を感じさせるではないか・・・・・・)

中田は、さっそく福村に、この記事を読ませた。

「ふーむ、・・・・・・川尻博士の言うとおりだな。専門の学者たちが、ソ連が見つけたのは影武者の遺体だと考えているとすると、ヒトラーが生き延びたということは、おおいにあり得る・・・・・・」

「他のナチ高官たちのカルテが見つからないということは、ダブル操作を見破られないための措置でしょう。とすると、エバ・ブラウンやボルマンも生きていると考えるほうが自然ですよ」

「となると、川尻博士の『ヒトラーはノストラダムスの予言に基づいて第二次世界大戦を遂行した』という主張は、そんなに根拠のないことでもないな。ふむ・・・・・・」

ついに懐疑的な福村も折れた。

中田信一郎は、川尻博士の壮大な仮説を記事にまとめるべく、ふたたび、病院を訪れた。

・・・・・・・・・次号更新【プロパガンダの天才・ゲッベルスとの出会い】に続く