『滅亡のシナリオ』:プロデュース(康芳夫)

プロデュース(康芳夫)
ノストラダムス(原作)
ヒトラー(演出)
川尻徹(著)精神科医 川尻徹

滅亡のシナリオ(14)

ナチ宣伝相ゲッベルスが叫んだ言葉とは

「そうだ、神の王国を建設するためには、御使いと呼ばれる予言者---予言(預言)とは神の言葉を受けて民衆に伝えるということだが---と、予言の実行をする者が必要になる。予言者がいても予言を実行する者がいなくては、つまり究極的には地球上の全人類を滅ぼせるハイ・テクノロジーを所有しなければ、神の王国は建設されない。ヒトラーは、戦争に参加した諸国民の集中力を利用して、それらの終末武器を発明させようとしたわけだ。

彼の野望の中では、ドイツという国家が、民族が、そのために大いなる災厄に見舞われても、やむをえなかったのだ。・・・・・・そして見たまえ、いま、世界はそれらの武器を持っているではないか」

中田には、返す言葉がなかった。

川尻博士は机の上の聖書を指さした。

「中田君。この聖書は、人類がこの地球上に神の王国を築きあげるための指令の書なのだよ。人類の指導者たらんとしたヒトラーは、この指令をもとに、第二次世界大戦という宗教戦争を遂行したのだ」

川尻博士の話はいよいよ核心に近づいた。

「私は、第二次世界大戦はヒトラーの宗教戦争に違いないと思い、それを証拠だてる歴史的事実を探していた。そうすると、この本の中に実に興味深い記述を発見したのだ」

博士が取り上げたのは、ナチの宣伝相ゲッベルスの一生を描いた『ゲッベルスーヒトラー帝国の演出者』(クルト・リース著、図書出版刊)だった。

「君も知ってるとおり、ドイツは一九四◯年五月一◯日、オランダ、ベルギー、フランスに機甲師団を侵攻させた。ドイツ軍の大進撃で、五月一四日にはオランダが降伏し、二八日にはベルギも降伏した。六月四日、英仏連合軍はダンケルクまで撤退し、全滅直前、かろうじて海に逃れた。そして六月二二日にはフランスが降伏する。ヒトラーは緒戦でめざましい勝利を得たわけだ。この本によると、その時ゲッベルスは、『われわれが勝つことはノストラダムスがすでに予言していた』と叫んで、ノストラダムスの予言詩集『諸世紀』を小冊子にして国民に配布したというんだな、私は『これだ!』と思ったよ。ヒトラーが聖書以外に頼っていた指令の書が、ノストラダムスの予言詩集だということに、この時初めて気がついたんだ」

なるほど、この書の一八八ページには、ゲッベルス自身がノストラダムス予言集の小冊子を考案したと記されている。

・・・・・・・・・次号更新【ノストラダムスの予言詩に沿って展開された作戦】に続く