ホラ吹き同士の対決(2)

康芳夫

康芳夫

ロッキーは黙って聞いていた。

最後に、私はこう言った。

「ついては、その条件として、二万ドル出してほしい。あなたもビジネスマンなら、まったくのタダで、こんなに効果的なPRができるとは思っていないだろう」

その瞬間、ロッキーは、いたずらっぽそうな眼で私を見、そして二ヤッとウインクして見せた。

まるで、「オマエさんに金のないのはわかってるんだぜ」と言っているような笑いであった。私はロッキーを甘く見過ぎていたのかもしれない。年齢こそ、私より三歳下だが、世界を股に商売しているロッキーは、人の心を見抜くのなんてお茶の子さいさいだったようだ。

ロッキーの出してきた条件はこうである。

一、金額は一万二千ドル。

二、しかも、それは、実際にクレイが『ベニハナ』に現われるまでは東京銀行パークアヴェ二ュー支店でストップ・ペイメントにしておく。

つまり、小切手は入れるが、ロッキーの許可があるまで支払いはしないというシステム。

三、プロモーターという名を私に使わせろ。

この三つである。

私はウナった。

ストップ・ペイメントとは。

プロモーターとは。

さすがである。さすがにロッキーである。昨夜のうちに私のことをできる限り調べたに違いない。そして、私の方の内情も。万一、金だけ取られてクレイが来ないこともあり得るとふんだに違いない。”日本のユダヤ人”ロッキーの面目躍如ではないか。私は、ロッキーが商売上の敵であることも忘れて、感心してしまった。ビジネスというものは、本来、ここまでシビアにやらなければいけないのだ。日本人はまだまだ甘過ぎる。

結局、ストップ・ペイメントは認める。しかしプロモーターは私だ。これはゼッタイに譲らない。私は、このクレイ戦のプロモートに生命だって賭けて来た男だ。だから、これだけは、ゼッタイにダメだ。もしどうしてもというなら二十万ドル出せ。そう私は言い張って譲らなかった。

結局、ロッキーをクレイ戦のパブリシティ・マネージャーにするということで、私とロッキーとの話がついた

クレイ戦の前座試合、ホラ吹き康と、ホラ吹きロッキーの試合は一勝一敗のドロー、つまり引き分けに終わったわけだ。

いずれ、いつか折を見て、ロッキーとは、もう一仕事してみたいと思っている。そのときには、私のホラでロッキーをノックアウトしてやるつもりだ。

・・・・・・次号更新【千両役者クレイ】に続く

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『虚実皮膜の狭間=ネットの世界で「康芳夫」ノールール(Free!)』真の虚業家の使命は何よりも時代に風穴を開け、閉塞的状況を束の間でもひっくり返して見せることである。「国際暗黒プロデューサー」、「神をも呼ぶ男」、「虚業家」といった呼び名すら弄ぶ”怪人”『康芳夫』発行メールマガジン。・・・配信内容:『康芳夫の仕掛けごと(裏と表),他の追従を許さない社会時評、人生相談、人生論などを展開,そして・・・』・・・小生 ほえまくっているが狂犬ではないので御心配なく 。

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